輪島塗は、江戸時代 寛文年間(1661~1671)に、現在まで受け継がれる独自の製法を確立したと言われています。
輪島塗が今日まで広く愛用されてきたのは、丈夫で美しい、丁寧な作りであったからに他なりません。
例え原価が高くなろうとも、厳選した最高の素材のみを用い、一品一品に多くの時間をかけて仕上げます。
この「最高品質でなければ輪島塗ではない」という考えは、弊社の基本方針となっています。
古くから分業制が敷かれてきた輪島には、木地師・下地師・研ぎ師・上塗り師・呂色師・蒔絵師・沈金師といった、実に多くの職人が存在します。
それぞれが得意の分野に特化し、一生涯をかけて一つの道を極めることが、輪島塗の品質を支える土台となっているのです。
そして彼ら職人達に指示を出し、取りまとめるのが我々「塗師屋(ぬしや)」と呼ばれる集団です。
弊社工房では下地師・研ぎ師・上塗師が、日々の制作に励んでおります。
輪島には、木地作り専門の職人集団「木地屋」が存在します。
木地屋は、数年から数十年に亘って寝かせた木材を常時ストックしており、それを加工して塗師屋に供給します。
「挽物・指物・刳物・曲物」といった様々な加工法を駆使して木地を形作るには、塗りと同様、熟練の技と知識を要します。
これらは、木の性質を知り尽くした専門家「木地屋」にしか出来ない仕事です。
「輪島地の粉(じのこ)」とは、輪島市内の小峰山(こみねやま)に産する珪藻土を焼成して砕き、粉状にしたものです。
これに漆と米糊を混ぜ合わせたものを用い、何層にも重ねる下地付けを行います。
珪藻土の微細な無数の孔により漆の吸着性を高め、ガラス質の微化石と鉱物による塗膜を形成することで、耐久性と断熱性に優れた下地となります。
この技法は、先人達が試行錯誤する中で偶然発見したものと思われますが、現在では科学的にもその有用性が認められています。
輪島塗の完成までにはいくつもの工程を踏みますが、その最終段階である上塗りは、最も神経を使う繊細な工程です。
作業は塗師蔵(ぬしぐら)と呼ばれる、適温・適湿が保たれた特別な部屋で行います。
一点の曇りもない鏡面のような美しさが求められるため、ほんの少しの埃さえも嫌い、作業中は例え親方であっても入室することは許されません。
漆を美しく固化させるには、湿度のコントロールが欠かせません。
漆の主成分であるウルシオールは、酸化酵素ラッカーゼが空気中の水分を取り込み酸化することで固化します。
急激な固化や遅緩な固化は塗膜の変形を招くため、塗師風呂(ぬしぶろ)と呼ばれる特殊な棚で、季節や天候を考慮した上で、常に気を配りながら湿度を管理します。
幾層にも塗り重ねる輪島塗は、一工程を終える度に固化させる必要があるため、制作期間の多くはこの塗師風呂における寝かせに費やします。
仕上がった漆器を彩る模様付けにおいても、輪島は高い技術力を誇ります。
塗り上がった漆器の表面に漆で模様を描き、金や銀などの金属粉を蒔いて定着させるのが「蒔絵」という技法です。
色漆を用いた色彩表現、高蒔絵による立体的表現等、自由で豊かな表現が可能です。
漆器の表面をノミで彫り、その溝に漆と金を埋め込むのが「沈金」という技法です。
彫刻ですので点と線による描画となりますが、細かな彫りによる陰影・遠近表現など、繊細で味のある模様を楽しむことができます。
特に輪島では「輪島沈金」として独自の発展を遂げ、現在まで数々の名工を輩出してきました。